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素数ゼミの謎(吉村 仁)2015.11.16

素数ゼミの謎

すうがくぶんか瀬下です。初回、2回目と統計学関連の本の紹介が続きましたが、ここらへんで気分を変えて、他の分野の本を紹介してみたいと思います。今回は吉村仁先生の「素数ゼミの謎」です。吉村先生は、現在静岡大学に籍を置いてる生物学者で、特に理論生態学・進化生物学を研究されている、日本有数の研究者です(吉村先生のホームページ)。この本の対象年齢は、小学校中学年から中学生くらいといったところでしょうから、大人のbook reviewに取り上げるか迷いましたが、私がとても好きな本なので、取り上げることにしました。また、お子様がいらっしゃる方は、子供用に買ってあげて損はないのではないかと思います。

素数ゼミ

この本のタイトルにもある「素数ゼミ」は、北アメリカに生息するセミです。日本のセミは、長い期間(アブラゼミなら6年)を地中で過ごし、成虫となってからはひと夏(一か月程度)しか生きられないという、人間からみると非常に不思議な生態をしています。ですが、世の中にはもっと上がいて「素数ゼミ」は、なんと13年もしくは17年という、非常に長い期間を地中で過ごし、13年、17年の周期で大発生します。ちなみに今年(2015年)は13年ゼミの発生年だったそうです。アメリカでは、このセミの大発生が一大イベントとなっているそうです(Youtube)。

本書は、なぜこのような生態をもつ素数ゼミが誕生したのかを、進化論的な観点から解き明かしていく本です。随所にある絵や写真も、非常に美しく(たまにショッキングなものもあります。虫が苦手な人は注意かもしれません・・・)我々の理解を助けてくれます。

素数と進化論

13と17という数字は素数(:=1と自分自身でしか割り切ることができない数)です。この本は素数の性質をてがかりに、進化とはどういうものかについて我々に教えてくれる、素晴らしい本です。

詳細を話してしまうと、面白みが薄れてしまうように思いますので、具体的な内容は避けますが(ぜひ自分で読んでみて下さい)、この本では、数学と生物学(進化論)が如何にして連携しながら、一つの問題解決に使われているかを、一つ一つ丁寧に説明してあります。

素数のもつ性質とは何か、進化論的な考え方とは何か、さらには地球の環境とその変化の歴史、それらの知識が一つの問題(素数ゼミは如何にして誕生したか)を解決するのに総動員されてゆく過程をみるのは、良質なサスペンスドラマの謎解きのようです。

分野横断的な思考法

私の少ない経験の中でのお話ですが、数学や科学を教えていて生徒さん(学生、社会人に限らず)にこんなことを言われることが、ままあります。

「先生、この公式は三角比のところで習ったものですが、ここ(他の分野)でも使ってよいのでしょうか。」

「物理学でも、数学の公式って使えるんですね。」

こういった思考法に陥ってしまう理由もわかります。日本の教育では各教科の分掌があまりにもはっきりしすぎていて、それぞれの教科の指導の際に、他の教科で学んだ知識をつかって問題解決にあたるという例・経験が圧倒的に少ないのです。

昔、機会があってアメリカ・オーストラリア・日本の数学教科書を比較したことがありました。まず、言えるのは日本の教科書は、純粋に数学的内容のレベルは非常に高いということ。アメリカ・オーストラリアの教科書の内容は、日本の1から1.5年遅れくらいの内容で、もちろん日本の大学入試問題に登場するような非常に難易度が高い問題は、見受けられませんでした。しかしながら特徴的だったのは、どちらの教科書にも、各単元・章末の課題などに、その得た知識を、現実の問題とつなげて考えさせるような、レポート課題のようなものが付いていたことです。

本の紹介なのに、少し話がそれました。言いたいことは、このような分野横断的な思考を持つことは、これからの課題解決には必要不可欠であるということ。また、そのような分野間のつながりを考えることは、数学が無味乾燥な学問ではなく、現実の問題とつながった、イキイキとした学問であると気づくきっかけとなりうるということです。そういった意味でも、この本のあらゆる知識が総動員されて、問題が解決されていく様子を見ることは、非常にエキサイティングだと思うのです。

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