応用されるベクトル・行列・行列式

俗に”理系”と呼ばれる大学の学部や学科では、専門性に多少の差はあれど、初年度に必ず微分積分学および線形代数学を学びます。その理由はこれら2つの分野が、あらゆる理系学問の基礎を支えているからに他なりません。また、世間的には必ずしも理系分野とは呼ばれない、経済学ほか社会科学の諸分野においてもその研究に欠かせないものですし、近年急速に発展を見せている機械学習やAIの分野においては、文字通りなくてはならない必須の知識といえます。どちらも抽象的な学問の枠を超え、さまざまな実社会の問題解決のために利用されているのです。

しかし、『数学の実社会への応用』とは、実際にはどのように行われているのでしょうか？

本講座の目的は、特に線形代数の応用に注目し、数学の知識を単に紹介していくだけではなく、現実世界の問題をモデル化し、数理的に表現するプロセスを観察することを通して、われわれが抱えるさまざまな問題を論理的に分析する力を養うことにあります。取り扱う予定の内容は、

・親族関係や婚姻のルール、強弱関係といった人間社会の基本的な構造をグラフ理論と行列で表す方法
・うわさの伝播や遺伝、人口の変動といった動的システムを、マルコフ過程として捉え、固有値や固有ベクトルというツールを通し長期的な均衡や動態を予測する方法
・経済学の市場均衡や国民所得モデル、産業連関分析（レオンチェフ・モデル）を扱い、複雑な経済現象を行列で整理・分析する方法
・資源の最適配分を考える線形計画法や、競争相手がいる状況での最適な戦略を導くゲーム理論

など多岐にわたります。単に数学的知識を列挙するにとどまらず、われわれの生活に数学がいかに深く根ざしているかを体感していきましょう。

これらの内容は、IT、統計学、機械学習の分野で不可欠な行列計算や線形代数の応用力を高めるだけでなく、社会学、経済学、経営学といった、世間的には”文系学問”と括られている学問を、データドリブンな視点で捉え直すきっかけともなるでしょう。